愛を知る前、
愛する前。
誰も彼もが
国も種族も関係なく、
平等に地平線上に並んでいた。
世界は、
手が届かない位置にある、
平面な絵画に過ぎなかった。
愛を知ってからは、
愛してからは、
地平線の彼方を見たくなった。
知りたいと思った。
だから歩き出した。
地平線を目指して。
様々な顔と出会い
様々な名前を知り
様々な言葉を話した。
時には
嵐が訪れ、
服は破れ、
荷物は飛ばされた。
憎しみも知り。
怖れも知った。
涙も流れたし
絶望さえ近付いた。
道が別れる度に
幾度となく迷い、
立ち止まり、
振り返り、
愛を知らなかった頃の
穏やかな日々を懐かしむ。
それでも、
戻りたいと思うことはない。
この世界の中に
愛する人、
愛する国を見つけたんだから。
今はただ、歩くしかない。
敵が現れたら戦うしかない。
地平線の向こうには
きっと輝く世界が、
呆れるほど遠くまで広がっているのだろう。
だけど、
今はこの狭い世界で
戦っていくしかない。
[91回]
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