僕が浅田選手の今季エキシビションの動画を見ていた時のこと。
ショパンのバラード1番を、飾り気のない白い衣装で演じる
このプログラムが、浅田選手のプログラムの中で一番好きだ。
YouTubeで初めて見た時から、僕はこのプログラムの虜になった。
深いエッジで左右に繰り出すツイヅル。
演技中盤で見せるシャーロットスパイラル。
後半の激しいステップ。
どれをとっても美しく、確かな技術に裏付けされていることがよくわかる。
バレリーナの練習風景を表現しているとのこと。
「一人のバレリーナが、練習で上手くいかなかったところを一人で居残り練習をしている。
もちろん、そこは舞台でもなく、観客もいない。
視線は、観ている誰かにではなく、むしろ、自分自身へ。
自分の内なる能力に、何度も何度も問いかけるように、納得がいくまで踊り続ける。」
「人知れず繰り返される努力とは、斯くも美しいものなのか」と思う。
それは、一人のスケーターとしての浅田選手の姿勢と重なって見えて
ジーンと心の中が熱くなる。
かつてのコーチ、タラソワ氏と浅田選手の、短くも深い信頼関係が生み出した奇跡のプログラムだ。
まさに芸術だ。
裏付けされる確かな技術と、指先、つま先まで行届いた表現力、
そして、絶え間ない努力の結晶だった。
僕は、感動し、落涙していた。
もう何度も繰り返し見ていているが、飽きることはない。
だけど、そんな僕が、妹には許せないようだ。
一番好きなシャーロットスパイラルに魅入っていた僕は
後頭部の衝撃で我に返った。
僕は、前につんのめり、顎をパソコンデスクにぶつけた。
どうやら、いつの間にか僕の部屋に入ってきた妹に
バッグで殴られたようだった。
「なにする!!」と怒鳴ったつもりの僕だったが、
先ほど流した涙でぐちゃぐちゃになった顔では、迫力が出るはずもない。
「変態!!」
二の句を告げずにいる僕をこう呼んで、妹は部屋を出て行った。
妹が階段を降りながら、リビングの母にこう言っているのが聞こえた。
「おかあさん、あにき、変態、浅田真央のお尻見て、よだれ流してる」
ち、違う、断じて違う。・・・涙・・・
1、よだれではなく涙。
2、お尻だけじゃない・・・じゃなくて、演技を見ていたんだ。
3、僕は変態じゃない。純粋なフィギュアスケートFAN。
このように、僕のフィギュアスケート愛は、
妹により「変態行為」と見なされ、家庭内迫害を受け続けている。
今もって進行中である。
後頭部やあごよりも、心が痛い一撃だった。
「おにいちゃんも男なんやから、しかたないでしょ」
母よ。それも違うから・・・再涙・・・
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